WORKS

京都の里山 X 北京大学附属高校 「森と暮らしとグローバル教育」

Client
北京大学附属高等学校・北桑田高校 交流プロジェクト
Place
参加者:北京大学附属高校の生徒17名、引率教員2名、地元・北桑野高校の生徒、地元教員3名、コーディネーターの劉曉倩(りゅう・しゃおちえん)、ROOTS 3名
Date
実施 2018年11月(4泊5日)、準備 2018年6月~

Background背景・課題

ローカルの深みを学び、グローバルに広げる

中国の高校生たちが日本の自然や文化を知る機会をつくりたいと、日本在住の中国人コーディネーターから依頼された。

世界最多の人口の中国では、日本以上に経済発展が凄まじく、同時に自然破壊や伝統の希薄化も進んでいる。高校生をはじめとする若い世代はとりわけ、当たり前のように成長主義の荒波の中で育てられ、資本社会よりも長期的な時間軸をもつ自然や文化の本質に日常的に触れる機会はわずかだ。

今回、コーディネーターが日本に連れてきたいというのが、中国でもトップクラスの学力である北京大学附属高校の生徒たちだった。中国にはない日本の「里山」を五感で知っていく、深い学びを希望されていた。北京という世界有数の都会に暮らし、国際人として世界中で活躍できるよう日々教育を受けるエリートな若者たちが、京北で何を学ぶべきなのか。

Key Principles:

  1. 日本の里山への理解を深め、中国と日本(の田舎)の差異や共通項を知る
  2. 自ら体を動かし体験することで、表層的ではない学びをつくる
  3. 世界で強い影響力をもつ中国人が、これからの時代にどう生きるべきかを考える
  4. 外来者の視点を通して、京北ならではの資源に気づく

Proporsal提案

大まかなプログラム

1日目:集合。ROOTSや地元教員からのレクチャー、課題出しのワークショップ

2日目:地元の高校生と森での作業+茅葺小屋作り

3日目:茅葺小屋作り、世界の茅葺事情レクチャー

4日目:美山かやぶきの里視察

5日目:振り返り、解散

 

①日本の里山への理解を深め、中国と日本(の田舎)の差異や共通項を知る

自然と関わる暮らし、神道と仏教の違い、アミニズムの世界観、桂川の物流史など、京北ならではの生活文化をレクチャーし、京北の文脈を一つずつ理解してもらった。
一方では単なる日本文化の理解で終わらないよう、それを中国社会と比較しつつ、イシューツリーの話などを共有(人口、雇用、食、環境など、あらゆる課題は繋がっている)。この時間を通して、中国の生徒自身が自国の課題に気づいていった。
そこからさらに踏み込み、個別の課題を知るだけではなく、両国の課題のつながりを知ることも重視した。一連の事情を共有したことで、他者文化への理解が深まり、生徒たちは共感力を持ち始めていた。

 

②自ら体を動かし体験することで、表層的ではない学びをつくる

茅葺の経験や知識がないまま「美山かやぶきの里」(茅葺屋根の集落が保存されている地区)に案内されても、生徒らの理解や関心は「へ〜」と消えていく。そのため、まずは体験を伴って理解できるよう、茅葺小屋をつくる作業や、森の中での作業を共に実践していった。

小屋をつくる作業は2日間にわたり、近隣地域の茅葺職人に指導されながら、竹製のフレームと稲藁の男結びを皆で制作。そのフレームと稲藁を組みあげて、軽やかなインスタレーションのような茅の小屋ができあがった。
またほかにも、皆で森に入り、北桑田高校が所有する林業関連の機械を活用して、伐採や皮剥ぎなどの作業に取り組んだ。これら一連の作業を通して、京北の里山を頭と体で理解していく。

そうした一連の作業後に「かやぶきの里」へ訪れると、生徒たちの茅葺の見方は解像度が格段に上がっていた。ROOTSのプログラムでは、単なる視察より先に体験することを大切にしている。

 

③世界で強い影響力をもつ中国人が、これからの時代にどう生きるべきかを考える

日本でも中国でも、資本・能力・競争主義という社会状況は根本的には変わらず、多くの若者はそれに半ば無自覚に疲弊している。一方で日本の里山の循環型の暮らしイメージは、多くの国の人々が理解でき、ひとつのビジョンとして共有しやすい。
これから中国がどう舵をとるのかによって、世界は大きく変わる。このことを5日間を通して実感してもらった。

 

④外来者の視点を通して、京北ならではの資源に気づく

わずか4泊5日の行程ではあるが、生徒たちは同世代同士、アニメや漫画の話題を皮切りに、いつのまにかLINEを交換していたりととても仲良くなっていった。京北の高校生にとっては、グローバルエリートである同世代とのコミュニケーションを通して彼らの積極性を知り、自らの進路に広がりがもたらされた。また森の作業を教えるという機会を通して、自らが日々触れている里山にこそ、重要な資源があるのだと改めて気づく。

そして何より、本事業のきっかけとなった海外コーディネーターの役割も、欠かせないものであった。地域にとって、外来者がその地域の素晴らしさについて熱っぽくプレゼンテーションしてくれることは、何よりの納得になる。地域の繊細さへの理解や敬意を持ち合わせた上で、外来者として地域に関わり海外へ発信してくれるコーディネーターの存在は、地域における開かれた事業において換えが効かない。

Next Vision今後の展望

この訪問を皮切りに、中国の生徒たちは再度京北に来る予定だったが、コロナにより一時休止されている。

また高校生同士のつながりはつくれたものの、5日間の行程では、地域の大人たちにつなげることはできなかった。後者のつながりができれば、大人たちは地元の子供のように彼らを思い、生徒らは京北の優れた生活技術を知る機会となるはずだ。